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赤ちゃん用粉ミルクはなぜ熱いお湯で調乳するの?
赤ちゃん用粉ミルク、なぜ70度以上のお湯で調乳するように指導されているかご存知ですか?粉ミルクを溶けやすくするため?
いいえ、答えは「赤ちゃん用粉ミルクの中などにいる菌をやっつける(不活化する)ため」です。
先に要約を書きます。
- サカザキ菌は、稀ではあるけれども、感染して発症すると敗血症や髄膜炎を起こし、致死率も高い危険な菌
- 国産の赤ちゃん用粉ミルクなら絶対安心というわけではない
- 調乳時には、手を洗い、70度以上のお湯を使おう
- 基本的に調乳したらすぐに飲ませよう
(記事は下に続きます)
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赤ちゃん用粉ミルクの中にはどんな菌がいるの?
粉ミルクの中には、サカザキ菌(クロノバクター・サカザキCronobacter sakazakii (C.sakazakii))やサルモネラ菌(Salmonella enterica)がいる事があります。今回はサカザキ菌に焦点を絞ってお話しします。
サカザキ菌に感染したらどうなるの?
サカザキ菌は主に乳児(特に新生児、未熟児、低出生体重児、免疫障害のある乳幼児)を中心として、敗血症や壊死性腸炎を引き起こす可能性があります。重篤な場合には水頭症、髄膜炎を起こし、致死率も50%程度と非常に高いため注意が必要です。最初の症状は、発熱、摂食不良、泣く、なんとなく元気がない、などです。
国産の赤ちゃん用粉ミルクは安全なの?
厚労省が国内の粉ミルクの調査をしています。2006年〜2008年に国産61製品、輸入品88製品の粉ミルクを検査したところ、国産の粉ミルクでは4製品(7%)、 輸入の粉ミルクでは5製品(6%)にサカザキ菌を認めました。
他の調査でも、2006~2007年度に国産の赤ちゃん用粉ミルク200製品を調査した結果、6製品(3%)が陽性でした。
ただし量としては微量で、333g中にサカザキ菌1個(検出限界ぎりぎり)。本当に微量です。
とはいえ、「安全」とは言い切れません。
国内でサカザキ菌に感染した子はいるの?
います。これまでに2例報告されています。(2007年に脳膿瘍、2009年に敗血症)
ただし、赤ちゃん用粉ミルクとの因果関係は不明です。感染経路ははっきりしていません。
(それ以前の報告がないのは、サカザキ菌自体が知られていなかった可能性があります)
サカザキ菌対策はどうすればいいの? 調乳時の注意点は?
サカザキ菌は菌の種類によりますが、70℃以上のお湯で調乳することで不活化できます(温度が低いと効果がありません、60℃では90分生きた菌もいます)。
また、粉ミルク以外のものから混入することもありますので、哺乳瓶や乳首(飲み口)はしっかり洗いましょう。手洗いもきちんとしましょう。
作り置きをすると、中で菌が繁殖する可能性があるので、その都度飲ませる分だけ調乳しましょう。(WHOやCDCは「すぐに飲ませない場合はすぐに5℃以下の冷蔵保存し、24時間以内に飲ませる」としています)
まとめますと、
- 哺乳瓶や乳首はきれいに洗う
- 調乳前には手をしっかり洗う
- 調乳時の温度は70℃以上(粉ミルクの説明書を参考に)
- 作りおきはしない
です。
液体ミルクは安全なの?
2018年の夏頃にうまくいけば発売される予定の、赤ちゃん用の液体ミルク。これは製造時に殺菌済みです。ですので、CDCはハイリスクと思われる新生児は可能であれば液体ミルクを推奨しています。
液体ミルクは災害時も役立ちます。上記のようなサカザキ菌の混入の危険がないため、赤ちゃんが飲みやすい温度に温めるだけで飲ませる事が可能です。母乳を飲んでいる赤ちゃんも、万が一に備えて液体ミルクを防災袋に入れておくことをお勧めします。
……だから早く発売してほしい!
災害時にどうしてもお湯が手に入らない時はどうすればいいの?
防災のアイデアとして、カイロで温めて飲ませるという話も出ていますが、これは70℃まで加熱するのは非常に困難です。あくまでも消毒は別として、「粉ミルクを溶かして、赤ちゃんが飲みやすい温度にする」という意味だととらえてください。WHOは、お湯が手に入らない場合は
- 滅菌された液体ミルクを使う
- 室温で安全で新鮮な水で調乳し、すぐに飲ませる
- 作り置き厳禁(2時間超えたら捨てる)
と説明しています。
サカザキ菌の話をしましたが、粉ミルクに混入している可能性は低く、また菌量も非常に少ないため、感染&発症の可能性は決して高くはありません。しかし、リスクはゼロはでありません。
災害時などでどうしてもお湯が手に入らない場合は、リスクとベネフィットを天秤にかける必要があります。お湯がどうしても手に入らないのであれば、赤ちゃんを飢えさせない方法として上記の方法を検討してください。
水に関しては、硬水のミネラルウォーターは赤ちゃん向きではありません(ミネラルの過剰摂取につながる)。できる限り軟水を防災グッズとして準備しておきましょう。
災害時、安全な水の確保は重要です。
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森永乳業
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和光堂 2013-03-04
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粉ミルクメーカーが調乳向きの純水を発売しています。加熱滅菌済みなので湯冷ましがわりにも使えます。赤ちゃん専用と考えて備蓄するなら、500mlのものの方が使いやすいと思います(月齢が進んでたくさん飲むのであれば2000mlでも。冷蔵庫が使えない状況も考えると、1日で使い切れる量が望ましいと思います)。
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イーゾン
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防災グッズにカセットコンロを入れておくのが一番かなとは思うのですが、こういうものもあります。石灰に水を反応させて熱を出すシンプルなものです(twitterでたくさん情報ありがとうございました)。98℃まで上がるようなので、調乳用の温度(70℃以上)にはなるんじゃないかと思います(私は実験はしていませんが)。
いくつかこの類の製品が出ています。比較してみましたが、哺乳瓶を使うならこれが便利かな……と。液体ミルクが手に入るまでは、こういうものも防災グッズに入れるのもありではないかと思います。
赤ちゃん用液体ミルクが国内で手に入るようになれば、災害時の備えがシンプルになります。1日も早く流通することを心から祈っています。
参考サイトなど
Home | Cronobacter | CDChttps://www.cdc.gov/cronobacter/index.html
WHO How to Prepare Formula for Bottle-Feeding at Home
http://www.who.int/foodsafety/document_centre/PIF_Bottle_en.pdf
厚生労働省:育児用調製粉乳中のEnterobacter sakazakiiに関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/050615-1.html
食品安全委員会
http://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H21_9.pdf
農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/attach/pdf/hazard_microbio-8.pdf
IASR 29-8 エンテロバクター・サカザキ, Enterobacter sakazakii, 乳児用調製粉乳, CODEX, 70℃以上での調乳 国立感染症研究所
https://idsc.niid.go.jp/iasr/29/342/dj3426.html
赤ちゃんを守るために:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/baby.html
妊産婦・乳幼児を守る災害対策ガイドライン 東京都福祉保健局
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kodomo/shussan/nyuyoji/saitai_guideline.html
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