赤ちゃんは胎児ではありません〜まんまる育児やおひなまきをすすめない理由〜

まんまる育児を私はすすめません

以前5000フォロワーさん感謝企画の時の質問コーナー。
質問というか、相談のようなものを受けました。

「まんまる育児ってご存知ですか? これまで自分がこの育児をして来なかったので、赤ちゃんに悪い事をしたのかと不安で……」

といった内容。

まんまる育児がどういうものかよくわからなかったので、ネットでいろいろ検索しました。
おひなまき、まんまる抱っこ、まんまるねんね……???

うーん……

今現在そういったまんまる育児をされている方がいるかもしれませんので、あまり脅すような事は言いたくありません。なので、この記事を書きかけては消し、書きかけては直し……とやってまいましたが、やはり、私はおすすめしません

赤ちゃんは胎児ではない

お腹の中にいる時の背骨の形、Cカーブを保ちましょう。
とか、
健やかな背骨の発達をうながすために。
とか、色々書かれていますが……

赤ちゃんと胎児はなにが違うでしょうか?

お母さんのお腹の中にいるか、外にいるか、それだけでしょうか。
それでは、赤ちゃんをもしお母さんのお腹の中に戻せるとしたら、赤ちゃんはお腹の中で生きていられるでしょうか。
羊水の中で、赤ちゃんは笑顔で泳いで……

いられませんね。

そう、胎児と赤ちゃんは違います。
赤ちゃんはもう、お腹の外に出て、息をしています。自分の力で呼吸をしています。

まんまるほにゃららの写真を見ると、首が異常に屈曲しているのを見かけます。
あれ、呼吸を妨げます。自分でやってみてください。苦しいでしょう。
子宮の中の胎児は、どうして苦しくないのでしょうか。
それは、へその緒で、お母さんから酸素をもらっているからです。

赤ちゃんはどうして産まれて来たと思いますか。
もう、へその緒がなくても、外の世界で息をして、生きていける準備が整ったからです。
そして、お腹から出て来たからには、外の世界になれていく必要があるのです。

お腹の中と同じ体勢を保つ事が、この重力があり、大気がある世界で、赤ちゃん自身で呼吸をして生きて行く助けになるでしょうか?
私はそうは思いません。

「昔と同じ子育て」はよい子育てか


「昔はこんな育て方をしていました」
というような表現もみました。つまり、昔はこんな風にまんまるにして子育てをしていた。だからいい子育てである、という事でしょうか。

ところでみなさんは、乳児の死亡率の推移を見た事はありますか?
厚労省の人口動態調査から人口動態総覧(率)の年次推移を見てみましょう(平成28年)

出生1000に対し、2016年の乳児死亡率は2.0。
さて、1940年頃はどうでしょうか。乳児死亡率は、90.0
もっとさかのぼりましょう。1899年の乳児死亡率は153.8です。

現在これだけ死亡率が下がったのには様々な要因があるのは承知です。そうではなく、この死亡率が高い時の育児法を「昔の子育てはよかった」と振り返り、現在に取り入れるリスクを考えてみてください。

医学的にみたまんまる育児の危険性その1・先天性股関節脱臼


先天性股関節脱臼という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
先天性と言いますが、生まれて来てからの下肢の運動や姿勢も大きな原因と考えられています。過去には巻きおしめといって、脚を伸ばした状態でしめるおむつが原因で、我が国でも多く起こっていました。

下肢を自由に動かせない、というのは股関節脱臼のリスクをあげます。
おひなまきは、この下肢を自由に動かせない(いくら脚をM字にしていても、あのように包み込めば同然下肢の動きは阻害されます)という事で、リスクは高いと考えられます。

医学的にみたまんまる育児の危険性その2・SIDSや窒息


おひなまきの状態でそのまま寝かせたり、授乳クッションを利用してふわふわふかふかの中で寝かせるやり方をみかけます。
私なら、到底恐ろしくてできない寝かせ方です。
これは、SIDSや窒息の危険があります

SIDS(乳幼児突然死症候群)は全ての原因がわかっているわけではありませんが、主に1歳未満の赤ちゃんが、突然死んでしまうという恐ろしい病気です。
SIDS及び窒息を防ぐためにいろいろと研究がされています。AAP(アメリカ小児科学会)が出している推奨がこちら

赤ちゃんが安全に眠るための方法を要約すると

  • 仰向け寝にする
  • 赤ちゃんは固い赤ちゃん用のベッドなどに寝かせる
  • ベッドガード、毛布、枕、柔らかいおもちゃ、柔らかい布は使用しない。ベビーベッドをなにかで包まない。
  • 同室で寝る(両親とベッドは別にする)
  • 喫煙、アルコール、違法薬物を赤ちゃんから遠ざける


など(他にもいろいろあります)。
特に柔らかいものや寝具については繰り返し言及され、寝るスペースには柔らかいものを置かないようにと書かれています。
「ベビーベッドは堅くて平らでくぼみがないものを」といった記述もあります。

授乳クッションを利用したり、まんまるねんね専用の寝具(とても高価で、赤ちゃんがビーズクッションの中に埋まり込むような形状のものなど)を利用する事は、このSIDSや窒息を避けるための安全な眠り方、とは到底言えません。
先ほど「私なら、到底恐ろしくてできない寝かせ方です。」と書いたのは、こんな理由です。

もし使用するのであれば、入眠までの短時間だけにして、寝入ったら必ず固い一般的な赤ちゃん用の寝具に移動させて寝かせるように注意して欲しいと思います。

最後に


相談された方が、「まんまる育児の事を知って、これまでの育児が間違っていたのかと不安になって」という事を書かれていました。
私は、誰かを不安にするような育児法が、よい育児法だとはとても思えないのです。
本当によい育児法であるのならば、それまでの育児を否定する必要はありません。こんな育児をしないと、育てにくい子になるとか、病気になるとか、そんな脅しをする必要は一切ないと思います。
こんな育児法をしなくても、あなたのお子さんが笑顔で育っていれば、それで十分と思います。

この育児法で、よく眠り、助けられている方もいるかもしれません。
だから、これをやめて他のやり方に今すぐ変えろ、とは、私も言いにくいのです。
ただ、私が少し考えただけでも、こんな医学的なリスクがあります。その事は知っておいて欲しいのです。


あなたの赤ちゃんは立派に生まれてきました。
もう胎児ではない赤ちゃん。
もう、子宮からは卒業してもいい頃ではないでしょうか。



追記

(自分のツイートから引用致します)
本文を読んでいただけるとわかると思いますが、おひなまき等をしている方を責める意図は一切ありません。あの大変な時期をそうして乗り切った方は、今のお子さんの元気な笑顔を見て、安心してくれたらと思います。

それとは切り離して、まんまる育児を医学的に見たリスクの事、まんまる育児をしなかったことで「これまでの育児は間違っていたのでは……」と追い詰められないでほしい事……そんな事が、悩んでいる方に届けばと思って書いた文章です。決して、あなたを傷付けるための文章ではありません。

大変な育児、悩むことも多いと思います。私も山ほど悩んできましたし、日々悩んでいます。いつかどこかで誰かの役に立てる記事であれば幸いです。


参考サイトなど

平成28年人口動態統計月報年計(概数)の概況|厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai16/index.html

SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment | From the American Academy of Pediatrics | Pediatrics
http://pediatrics.aappublications.org/content/138/5/e20162938

先天性股関節脱臼の概略/滋賀県立小児保健医療センター
http://www.pref.shiga.lg.jp/mccs/shinryo/sekegeka/shikkan/kokansetsu/dakkyu/gairyaku/index.html




(記事は下に続きます)
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