IgGを使った「遅延型フードアレルギー検査」にご注意を


SNSなどをやっていますとたくさん情報が寄せられるのですが、ちょっと見過ごせないものがあったのでこんなツイートをさせてもらいました。



他にもアレルギーを専門とされている先生が記事を書かれていますが、私もちょっとだけ注意喚起したいと思います。

【注意】遅延型フードアレルギー検査、アレル・チェックはアレルギー検査として意味ありません。【まだやっているのか!】 - 勤務医開業つれづれ日記・3
中間管理職@2008med先生の記事です。内容がかなりかぶっていますのでご了承ください(先生の記事を読んでいれば私のは読まなくても大丈夫です)


「遅延型食物アレルギーってなあに?」
という方は読まなくて結構です。あまり耳に入れる必要もない情報と思ってください。遅延型食物アレルギーについての詳しい解説は今回しませんし、それについての是非も書きません。




高額な「遅延型フードアレルギー検査」は残念ながら「意味がない」

さて、「遅延型フードアレルギー検査」を謳っている会社は、「遅延型フードアレルギーによってこんな体の不調が起こる!」と様々なことを書いています。
一部引っ張ってきますと、

過敏性腸症候群、ガスがたまる、便秘、下痢、吐き気片頭痛、不安神経症、情動不安定、憂鬱、集中力不足、ほてり、尿意切迫、膣のかゆみ、おりもの、月経前症候群(生理痛)、不整脈、胸痛、高血圧、頻脈、にきび、アトピー性皮膚炎、ふけ、湿疹、目の下のくま、慢性疲労、むくみ、口内炎、ドライアイ、涙目……

すごいですね! これだけあれば一つくらいあてはまって当然でしょう。私だって何個もあてはまりますよ。
そう。それを狙って書いているんです。

「体の不調にはなにか原因があるに違いない。でも病院じゃ検査してもなにもでてこない……一体なにが原因なの?」

そういった、弱った人の気持ちにつけこむやり口です。
そして、96項目とか120項目とか219項目の遅延型食物アレルギー検査をほんのちょっとの採血で全部検査できちゃいますよ、とあります。わあすごい。たくさんですね。
さらにお値段もすごいですよ。数万円します。びっくりですね。

しかし言わせてください。この検査自体が「意味がありません

この遅延型食物アレルギー検査に使われているのは、「IgG抗体」です。Igほにゃららというのは抗体の種類を表しています。他にもIgA、IgE、IgMがあります(IgDもあるか)。
一般的な食物アレルギーで、病院やクリニックで保険もきいて検査できるのは「IgE抗体」の検査です。種類が違います。

「遅延型食物アレルギーなんだから、IgEじゃなくてIgGの検査でなにが悪い」
と思われる方もいるかもしれませんが、一言でいうと「だから意味がありませんってば」なのです。

と私がいくら言っても説得力がありませんので、虎の威を借ることにします。

すでに各国のアレルギー学会から注意喚起が出ている「IgG抗体を使った食物アレルギーの検査」

海外のアレルギー関連の学会、それに日本の学会からも、もう何年もまえから注意喚起が出ています。

2010年にはアメリカのアレルギー学会(アメリカ臨床免疫アレルギー学会:AAAAI)から

AAAAI support of the EAACI Position Paper on IgG4(pdfです)

2014年11月には日本小児アレルギー学会から
日本小児アレルギー学会 - 血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起

2015年2月には日本アレルギー学会から
〔学会見解〕血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起|一般社団法人日本アレルギー学会
と、結構前から注意喚起が出ています。
日本アレルギー学会の注意喚起文から一部引用しますと、

米国や欧州のアレルギー学会および日本小児アレルギー学会では、食物アレルギーにおけるIgG抗体の診断的有用性を公式に否定しています
その理由として、以下のように記載されています。
すなわち、

①食物抗原特異的IgG抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体である。
②食物アレルギー確定診断としての負荷試験の結果と一致しない。
③血清中のIgG抗体のレベルは単に食物の摂取量に比例しているだけである。
④よって、このIgG抗体検査結果を根拠として原因食品を診断し、陽性の場合に食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去となり、多品目に及ぶ場合は健康被害を招くおそれもある。
(アンダーバーと改行は読みやすく挿入していますので、原文は引用元でご確認ください。)

さらに、この学会の公式の見解に書かれている参考文献をちょっと読んでみましょう。
Testing for IgG4 against foods is not recommended as a diagnostic tool: EAACI Task Force Report. - PubMed - NCBI

ちなみにこれは2008年に書かれたもので、少なくともその頃から問題視されていたことが窺えます。(IgG4と書かれているのは、IgG抗体の中の1種(サブクラスといいます)のことです。)
アブストラクトの最後の方をざっと意訳するとこんな感じです。

食物に対するIgG4は、その食品の成分(タンパク質)に繰り返し晒されていることを示している。このIgG4があるということは、食物過敏を誘発していることを意味しているのではなく、むしろ制御性T細胞に関連する免疫寛容の指標とみなされるべきである。

意訳してもまだわかりにくいですね。わかりやすくいうと、

  • 血液の中に食物に対するIgG抗体ができているということは、単純にその食べ物を繰り返し食べているということを示しているだけ。
  • 食物に対するIgG抗体ができているということは、その食物に過敏性があるとか、不耐症があるって意味じゃなくて、むしろ免疫寛容できてるよ(その食物は体にとって害がないから、もう食べても大丈夫って体の中の免疫系がきちんと認識してるよ)という意味

という感じでしょうか。
先ほどから遅延型食物アレルギー検査としてIgG抗体を調べることは「意味がありません」と繰り返し申し上げたのは、こういう理由からです。

ネットで検索すると、実際に遅延型食物アレルギー検査を受けた方のブログなども出てきますが、上の知識をもって読むと非常にわかりやすい。

「大好きだった乳製品の数値が全部高い」
「グルテンフリーにはまっていたんだけど、毎日使ってたアーモンドの粉の数値が高いからこれからはもう食べません」

おそらくよく食べていたので数値があがったんでしょう。それだけです。除去する必要はないですよね。

「数値が高かった食品を全部除去したら、次の検査で数値が全部下がって改善していた」

これも同じですね。その食品を食べなかったから数値が下がったんだと思います。

食べていたからIgG抗体の数値が上がった、食べなかったから数値が下がった。免疫寛容の話はおいておくとしても、それ以上でもそれ以下でもありません。


不必要に食べ物を除去すると、逆に食物アレルギーを発症する可能性もあります

それまで食べることができていた食べ物を除去することの危険性を、ほむほむ先生@ped_allergyが解説されています。
摂取できていた食物の除去は食物アレルギーを発症させるかもしれない
特にお子さんをお持ちの方にぜひ読んでいただきたい内容です。IgG抗体の検査についても、私が今回書いたことよりもっと詳しい話も書かれています。

この遅延型フードアレルギー検査キット、Amazonや楽天でも売られています……。(間違って購入する方がいると思いますのでリンクはしていません)
そしてさらに残念なことに、一部のクリニックが採用し、自費で検査を受けさせ、不必要な除去を指導しているようです。

この検査では不調の原因はわからない

人間は生き物です。なまものです。
生きている以上、常に快調ではありません。
不調もおきます。ガタもでてきます。
その体の不調をなんとかしたいのは当然です。
私だっていろいろどうにかしたい不調があれこれあるんですよ。
でもね……病院にかかっても血液検査はなんもないし、エコーとかとってもなにもないんですよね。
にんげんだもの。はっきりした原因なく不調なこともあります。

原因をなんとか追求したい気持ち、重々分かります。私だってなんとかできるならなんとかしたいですよ。原因がわかって病名がつけば治療もできますが、わからなかったらなにもできないんですもの。

しかし、この「IgGを使った遅延型食物アレルギーの検査」は意味のない検査で、本来ない病気を作り出し、その食べ物を除去することでさらに健康を害するかもしれない検査だってことを知っていてほしいのです。
少なくとも、あなたの体の不調の原因はこの検査ではわかりません。
そういうことになります。

ネットの情報には気をつけてください


あなたの体が不調な時、その弱った心と体を狙って、いろいろなものがやってきます。
特に身近な「食べ物」は狙い目です。よければ一度「フードファディズム」で検索してみてください。
なにかの健康法に手を出す時には、「これを信じてなにかおこった時に誰かが責任をとってくれるか」も考えてみてください。

今ネット上には情報が溢れすぎています。やみくもにGoogleで自分の症状を打ち込むよりも、「信頼できるサイト」の中で検索するくせをつけるのも一つの手です。(大学関連の「ac.jp」、政府関連の「go.jp」を検索したい語句に加えて検索するのもありです。特にこれでほとんど出てこない病気・健康情報は「なんかおかしいかも」と疑ってみてください)

食物アレルギーについてお悩みの方へ

もし食物アレルギーについて本気でお悩みの方は、「アレルギー専門医」のいる医療機関を受診してください。
日本アレルギー学会専門医・指導医一覧(一般用)|一般社団法人日本アレルギー学会
日本アレルギー学会がアレルギー専門医・指導医を検索できるようにしてくれています(アレルギー指導医というのは専門医の上位版というか、要するにすごい人です)。
もちろん専門医をもっておらずとも、真摯な診療をされている先生はたくさんいらっしゃいますが、今お悩みの方であれば、確実なのは専門医のいる医療機関にかかることです。無理になんの検査をしてほしいとネット上で調べる必要はありません。いつからどんなことに困っていて、自分としてはどういったことが原因じゃないかと思っているか、そういったことをお話しいただけたらと思います。

まとめ

結論を言います。

  • 自費&高額で行われる、IgG抗体を使った「遅延型フードアレルギー検査」は意味がありません
  • この検査結果に基づいて食品の除去を行うことは、むしろ健康を害する可能性があります
  • 下手をすると新たな食物アレルギーを引き起こす可能性があります
  • 子供の成長にとって大切なタンパク源を奪うことはどうかやめてください


私は、一番の健康法は、「バランスのとれた食事、適度な運動、十分な休息と睡眠」だと思います。
そんな単純なことが一番難しいのですけれども、ね。

参考サイトなど






(記事は下に続きます)
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