卵アレルギー発症予防と離乳食早期摂取の関係についての論文の解説

まず最初に、この論文は「卵アレルギーを治す論文」ではありませんし、「卵アレルギー予防のために早くから卵を与えよう」という論文でもありません。


2016年12月8日付けでランセットで発表された、国立成育医療研究センターの論文とそのプレスリリース。

離乳期早期の鶏卵摂取は鶏卵アレルギー発症を予防することを発見 | 国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/press/2016/egg.html

Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial - The Lancet
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)31418-0/abstract


非常に興味深い内容となっています。
もうすでにあちこちの新聞の記事にもなっていますが、改めて簡単にご紹介します。というのも、言葉足らずの新聞が多いので。


最初にざっくりと説明します。


  • 食物アレルギーを起こしやすいアトピーのある赤ちゃんに、湿疹の治療をしっかりとしながら、離乳食早期(6か月)から固ゆで卵の粉末極少量(1日あたり50mg、つまり0.05g!)を食べさせたところ、生後1歳まで卵をあげなかった赤ちゃんと比べて、卵アレルギーを起こす子がとても少なかった。


  • あくまでもアトピー性皮膚炎がある赤ちゃんに限った話で、すでに起こった卵アレルギーを治療するという話でもなければ、勝手に家で試してみろという話でもない。



ここから先はもう少し詳しい内容ですので、興味のある方はどうぞ。



以前「乳幼児期のピーナツ使用・除去とピーナツアレルギーの関係についての論文」で書きましたが、アレルギーになりやすい食品を食べさせ始めるのを遅らせることには科学的な根拠に乏しく、むしろ早いうちから食べさせた方が食物アレルギーを起こしにくいのではないか、という研究が行われてきています。
(「逆転の発想?!」などと銘打っている報道も見かけましたが、これはこれまでの経緯を知らないところなんだろうな、と。もうちょっと調べていただきたい。)


今回の論文は、卵を使ったアレルギーの研究です。
今回の研究では、そもそも食物アレルギーを起こしやすいアトピー性皮膚炎の子を対象にしています。
「生後4か月までにアトピー性皮膚炎と診断されている赤ちゃん」(ただし、在胎 37 週未満での出生、すでに鶏卵を摂取したことがある、すでに卵アレルギーや他の食物アレルギーの可能性がある、重篤な合併疾患がある子は除く)をランダムで割り振って、生後6か月から1歳まで「固ゆで卵粉末極少量+かぼちゃ粉末」を食べさせる群と、「かぼちゃ粉末のみ」を食べさせるプラセボ群に分けました。
(かぼちゃはあくまでもプラセボ及び量を調節するためのものです。見た目や味でどちらが卵が含まれているかわからないように使われていると思います。かぼちゃが卵アレルギーを起こすわけでも、治療する訳でもありません。誤解なきよう。)


その結果、6か月から固ゆで卵粉末を摂取していた群の方が、摂取しなかったプラセボ群と比較して生後1歳の時点で卵アレルギーを起こす確率が非常に低いことがわかりました。(卵を食べさせていた群は8%、食べさせていない群は38%が卵アレルギーになった)

「卵アレルギーを8割予防」と報道されている部分、勿論間違いではないのですが、実験の母数が多くないので(有意差が出た時点で実験を終了しているため、少なくて仕方がないのですが)、もし数人発症するしないだけで随分割合が変わる事を考えるとちょっと強調しすぎかな、と思います。もちろん有意差が出ているので間違いありませんが。


この実験の面白いところはもう一つあり、どちらの群も湿疹の治療をステロイド軟膏と保湿剤を使って、しっかりと治療して湿疹がない状態を保ちながら実験を行っています。
これは、バリア機能の壊れた皮膚から抗原(今回は卵)が入ることによって食物アレルギーが起こる(皮膚感作)可能性があり、今回の実験に支障をきたさないために行われています。
(もし、この湿疹の治療が行われていなかったとしたら、早期に卵を摂取した群は、逆に卵アレルギーの起こる確率が高くなったのではないかな、と推測します。)
この論文についても国立成育医療研究センターが書いていて、「保湿剤でアトピー性皮膚炎の発症が減少した、というニュース」で解説していますので、よければ参考に。



今回の実験を含めてメタ解析もされていて、「Timing of Allergenic Food Introduction to the Infant Diet and Risk of Allergic or Autoimmune Disease: A Systematic Review and Meta-analysis.」で、「離乳食早期(4〜6か月)に卵を摂取すると卵アレルギーの発症を予防する」という結果は出ています。
が、生卵粉末を使った研究ではやはりアナフィラキシーショックなどの危険もあり、安全性に乏しいです。
また、今回の研究のようにしっかり固ゆでにした卵の乾燥粉末少量(50mg!)から始めるというのは、現時点で家庭ですぐに始められるような話でもありません。

また、今回はアレルギー素因のある、現在卵アレルギーを起こしていない赤ちゃんを対象に行っているので、アレルギー素因のない赤ちゃんにどのくらい効果があるかはわかりません。


しかし、卵のアレルギーが怖いからと必要以上に遅らせる意味はない、という点で、過去からの離乳食の誤解を解く意味でも、この研究は大いに評価されるべきだと思います。


私個人がこの論文を読んで説明するとしたら、例えば無理に6か月から積極的に卵をあげましょう、とは言いません。
アトピー性皮膚炎ではない子で、今現在、明らかな食物アレルギーが出ていないのであれば、まず皮膚の状態をベストに保ち(肌荒れがあればワセリンなどの保湿剤やステロイド外用剤を用いてしっかり治療)、一般的な離乳食の進め方で構わないので、遅らせずに進めて欲しい、と説明すると思います。

アトピー性皮膚炎の子については、専門医の元で湿疹を治療しながら、今回のようなやり方で離乳食早期から卵を極少量摂取していく指導が今後行われて行く可能性はあります。
すぐに臨床応用するのは難しいかもしれませんが、アトピー性皮膚炎の6か月未満の赤ちゃんがいて、離乳食の始め方に不安がある方は、是非一度小児科で相談されてみてください。


離乳食の進め方、本当に悩みどころだと思います。
食物アレルギーを心配するのも当然です。
しかし、今回の研究結果は、一つの安心材料になると思います。
大丈夫です、無駄に遅らせる必要はなさそうですよ。
赤ちゃんの様子を見ながら、いろんな食材を一つ一つ試してあげてくださいね。




赤ちゃんの皮膚トラブルについてはいくつか記事を書いていますので、よければ参考に。
赤ちゃんの皮膚トラブル〜保湿剤について考える〜
赤ちゃんに保湿剤を塗るタイミング〜入浴後の保湿の必要性〜
おむつかぶれ(おむつ皮膚炎)になりました




参考サイトなど

Timing of Allergenic Food Introduction to the Infant Diet and Risk of Allergic or Autoimmune Disease: A Systematic Review and Meta-analysis.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27654604

「卵アレルギーの発症予防研究 (PETIT:プテイ研究)」のご協力のお願い
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/seitai-bogyo/tamago_kenkyu01.pdf

離乳期早期の鶏卵摂取は鶏卵アレルギー発症を予防することを発見 | 国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/press/2016/egg.html

Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial - The Lancet
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)31418-0/abstract

離乳食早期からの卵摂取で卵アレルギー8割予防:日経メディカル

(記事は下に続きます)
スポンサードリンク

(もし記事を読んで、「役に立った。よし、これ書いたやつにコーヒー1杯くらいおごってやろうか」などと思ってくださった方や、金はかけたくないけど支援する方法があるなら……と思った方は、noteからサポートなどしていただけたら幸いです。シェアも大歓迎です)

スポンサードリンク